趣旨と方針

 趣旨

  1. 異なる文化背景を持つ人々がおたがいを認め合い、共に生きる地域社会をめざす。
  2. 共に生きる地域社会を築くために、広い意味での教育面での改善と向上をめざす。


 活動方針

  1. 連絡会を開催し、実践や活動上の成果・課題を交流し、相互の啓発と協力関係をつくる。
  2. 交流会や研修会などのさまざまな活動に対して、後援や協力を行う。
  3. さまざまな形での情報交換が可能になるようにネットワークを整備する。

 

日本語を母語としない子どもたちと進路問題

 親の仕事などで海外から来日した子どもたちにとって、日本人の子どもと同じように進学に必要な学力を獲得していくことは、彼らの日本語力の不十分さらみて、非常に困難であると言えます。なぜなら、日本の学校では、圧倒的多数の日本語を母語とする子どもたちを対象に教育制度や教育内容が作られ、それらを基に教育活動が行われているからです。
 私が勤める中学校の日本語教室に、ある時、公立中学校に在籍する中国人の女子生徒が通うことになりました。教室では、初期の日本語指導から始めたのですが、彼女の日本語力はみるみるうちに上達していきました。しかし、学校のテストは、一般の子どもたちと全く同じ内容でしたので、結果も悪く、彼女は徐々に自信と意欲を無くしていきました。おまけに、周囲の生徒とのトラブルも重なって、学校も休みがちになり、日本語教室にも通えない状況が続きました。数ヵ月後、彼女はようやく立ち直り、日本語教室にも再び通い始めましたが、既に進路決定の時期が迫っていました。当然ながら、全日制の公立高校に合格できる学力はついていません。彼女の担任と日本語教室側の教員が協力して、何とか私立高校の受験までこぎつけ、見事合格するところまでいったのですが、経済的な事情から、結局辞退してしまいました。彼女は高校進学をあきらめ、働くことを選びました。日本へ来たことによって、人生が大きく揺さぶられ、全てが不本意なままで、自分の人生を歩んでいかざるを得ない彼女のことを思うと、今でも胸がしめつけられます。
 彼女のような子どもたちが、日本の社会の中で自立して生きていくためには、安心して日本語を学び、徐々に学力を獲得していける時間と居場所がまず保障されなければなりません。地域の学校に広く点在し、少数の立場で在籍する全ての日本語を母語としない子どもたちの願いを大切に受け止め、彼らへのサポート体制を学校や教育行政、地域が連携し、整備していくこと、このことは今後の多文化共生社会を展望する上で、真っ先に取り組むべき教育課題と言えるでしょう。

(京都教育大学附属桃山中学校教諭 佐々木稔)

2008年6月京都市発行「市民しんぶん」『シリーズ人権・心のカギ』より